ラジオ福島

緊急特別企画・特集「クマ来ないで!」テキスト版 Q&A 2025.10.21(火)放送

県民・リスナー・登山者それぞれが今日から出来ること

情報を知る (自治体・警察・ラジオのクマ情報を定期的にチェックする)
装備を整える (山に入るときはクマ鈴・ラジオ・可能ならクマ撃退スプレーを準備し、使い方を事前に確認しておく)
一人で行動しない (山菜採り・農作業・通学・散歩も可能な限り複数人で)
エサを置かない (放置果樹・生ごみ・ペットフードなどをそのままにしない)
遭遇時の行動を家族で共有する (遠くで見たら「後づさり」、近くで出たら「頭と首を守ってうつぶせ」、決して走らない・石を投げない)
目撃したらすぐ110番通報 (自分だけで抱え込まず、「地域全体の情報」に)

1. 今年、こんなにクマの出没が多いのはなぜ?
今年の山は「エサ不足」が深刻だからです。ブナやドングリなどの木の実が大凶作で、山の中だけでは生きていけないクマが、人里までエサを探しに降りてきています。さらに、昨年(実りが良かった年)に子グマがたくさん生まれていて、2022年も実りが良く、その世代のクマが今ちょうど「行動範囲を広げる年齢」になっています。「エサがない」+「クマの数が増えている」が重なり、出没件数が一気に増えている状況です。
2. クマの数って、年ごとにかなり違うの?
その年だけでなく、「前の年・前々年の実り具合」や「そこで生まれた子グマの数」も影響するからです。「その年に山の実りがあるか」だけを見ても分からず、〔2〜3年前の実り → 子グマの誕生数 → 今の年齢と行動範囲〕といった複数年の積み重ねで今の出没状況が形づくられます。
3. どうしてクマは「まち」にまで出てくるようになった?
「人の生活スタイルの変化」と「山の使われ方の変化」が大きいです。昔は。人は山で農作業・薪取り・木を切るなどの仕事をしていた。クマにとって人は「怖い存在」で、“見えない境界線”があり、人里には近づきにくかった。今は、人が山に入らなくなり、クマが人に出会う機会が減った。「人はそれほど怖くない」とクマが学習しつつある。河川敷のヤブなど、人の目につきにくい場所が増え、そこを生活の場にするクマもいます。結果として、“人里がクマの生活圏に取り込まれつつある”状態になっています。
4. 「アーバンベア」って何?
直訳すると「都市型のクマ」。人里や町の近くを拠点にして暮らすようになったクマ。人の生活音・車の音などに慣れてしまい、あまり逃げない。子グマが「山ではなく人里近くで生まれ育つ」ケースもこれらのクマにとっての“ふるさと”は山ではなく人里ただし、人に慣れている=人を襲うクマばかりではありません。多くのアーバンベアも、本質的には人を怖がっていると考えられています。
5. クマは人を「獲物」として襲うの?
基本的にクマは「人を食べよう」とは思っていません。ごく一部、「人の肉を食べてしまった個体」はいますが、それは例外的。ほとんどのクマにとって、人はあくまで「怖い存在」。多くの事故は、出会い頭で驚いての“防御的な攻撃”驚いた拍子の「じゃれつくような動き」が原因と考えられます。ただし、爪も牙も人間にとっては“凶器”なので、「じゃれた」だけでも重傷になり得る、というのが現実です。
6. クマはどこを狙ってくるの?
基本的に「顔」や「頭」を狙う習性があります。子グマ同士のじゃれ合いの中で、「鼻先をつつくと相手が大きく反応する」ことを学習し、それが人間に対しても出てしまい、顔や頭部を集中的に攻撃する傾向があります。だからこそ、襲われそうな至近距離になったときは、「頭と首を守ってうつぶせになる(防御姿勢)」ことがとても重要です。
7. クマに遭遇したら、走って逃げていい?
それは絶対にNGです。クマは時速50〜60km以上で走ることができ、人間が走って逃げても簡単に追いつきます。「背中を向けて逃げるものを追いかける」という本能も刺激してしまいます。正しい対応の基本は、クマから目を離さず、ゆっくり後ずさりする。山中であれば、木の陰などを利用して距離を取る。クマが逃げているようなら、そのまま静かに離れることが大切です。
8. クマに至近距離で出くわした場合は?
「クマ被害を最小限にする姿勢」を取ります。頭と首を両腕でしっかり守る。うつぶせになって伏せる(防御姿勢)。お腹を上にして仰向けになる「死んだふり」はNG(腹部を狙われる危険が大)。いわゆる「死んだふり」は、至近距離での防御姿勢としては意味がありますが、遠くにクマが見える段階でいきなり倒れ込むのは逆効果です(興味を持って近づかれる)。
9. クマ鈴やラジオは本当に効果がある?
「クマ避けの魔法の鈴」ではなく、“人の存在を知らせる道具”として重要です。鈴やラジオの目的は「ここに人間がいますよ」とクマに知らせること。多くのクマは、事前に人の気配を察するとそこに近づかない/避けてくれます。アーバンベアの中には音にあまり驚かない個体もいますが、「何も音がない状態」よりは圧倒的にリスクを下げられます。ポイントは、①鈴は高い音(ベル型)の方がよく響くので有効②低く「ジャラジャラ」した音は、川や風の音に紛れやすい③山菜・キノコ採りのように「しゃがんで動きが少ない作業」のときは手を叩く、時々声を出すなどして“音が止まらない工夫”をすることが大切です。
10. クマはいつ活動が活発になる?
基本的には次の時間帯が要注意です。早朝(明け方)夕方(薄暗くなる時間帯)など、この時間帯は「白明・薄暮」と呼ばれ、クマの活動が特に活発です。ただし今年は、エサ不足が深刻なため、日中も含め、時間を問わず動き回る個体が多いと考えられます。
11. クマは冬でも出る?冬眠しないクマがいるって本当?
昔から一定数「冬眠しないクマ(アナモタズ)」はいます。近年、エサ不足の年には、脂肪を十分に蓄えられず冬眠に入らず動き続ける個体がいる人里にエサ(作物・貯蔵米など)があると、冬でも「無理に冬眠しなくてよい環境」になってしまうことも。クマは寒さで冬眠するのではなく「冬の間エサがないので、秋までに食べて脂肪をためて冬眠する」動物です。
12. 山に入るときの基本装備・心構えは?
次の3つが基本です。①最新の出没情報を確認する。自治体・警察・ラジオのクマ情報マップをチェック。「この山、このルートで出ているか」を必ず確認。②装備は、クマ鈴・ラジオなど「音の出るもの」。可能ならクマ撃退スプレー(購入したら必ず事前に試し噴射して使い方を確認)。③行動スタイルは、複数人で行く(単独行は避ける)。雨の日は、雨音で周囲の音が聞こえにくくなるので、山に入らない方が安全。糞や足跡など、クマの痕跡を見たら、「この辺はクマの通り道」と判断して特に警戒する。
13. 子どもを守るにはどうしたらいい?
「行動時間」「人数」「教育」の3点が鍵です。可能なら朝・夕の薄暗い時間帯を避ける。複数人での登下校を徹底する。自転車でもクマの方が速いので、「逃げ足」に頼らない。子どもにも「クマの防災教育」をする。地震で「机の下に隠れる」と同じように、クマに対しても「頭と首を守る防御姿勢」を訓練して身につける。小さいうちから正しい行動を覚えておくことで、パニックを減らし、被害を小さくできます。
14. 家の周りでできるクマ対策は?
「エサを置かない」「音を出す」の二本柱です。①エサになるものを放置しない(放置された柿、栗、クルミ、畑の作物、夜のうちに出した生ゴミ、、外に置きっぱなしのペットフードや野良猫へのエサ)。これらは「クマにとってのごちそう」です。収穫しない柿の木は、伐採も含めて検討。ゴミは自治体のルールどおり朝に出す。ペットのエサは屋内保管する。②音による対策(畑の周囲にロープを張り、鈴をいくつもつけて風で鳴るようにする。ラジオをつけておくのも一定の効果あり)。「これで完全に来なくなる」とは言えませんが、「何もしないよりは、明らかにリスクを減らせる」対策です。
15. クマが嫌いな匂い・好きな匂いはある?
匂いだけでクマを追い払うのは基本的に難しいと考えられています。実際に、髪の毛や匂いのするものをぶら下げている農地もありますが、クマはすぐに慣れてしまうケースが多いです。光・音・匂いは「カカシ」と同じで、最初だけ効いて、すぐに効果が薄れるというのが現実。一方、クマも甘いものは好き(蜂蜜など)、だからこそ、甘い匂いのする果物や加工品の管理には注意が必要です。
16. クマに石を投げるのは効果ある?
これはNGです。クマに刺激を与え、「攻撃された」と受け取られるリスクがあります。クマ側のスイッチを入れてしまい、逆効果になる可能性が高いです。基本原則は、戦わない・挑発しない・静かに距離を取ることです。
17. クマにひっかかれた/噛まれたとき、自己処置は危険?
絶対に医療機関を受診すべきです。クマの爪や牙の間には、多くの雑菌がついています。傷が浅く見えても、化膿しやすく、感染症リスクが高くいので、抗生物質を含めて、医師の診断・治療が必須です。「時間がないから」「軽そうだから」と自己判断で済ませるのは非常に危険です。
18. クマを見かけたら、どこに連絡すればいい?
まずは「110番」が原則です。福島県では警察が非常に積極的にクマ対応を行っています。携帯からの110番なら、発信場所がある程度特定でき、すぐにパトロールに出られます。クマ対応は何より初動が重要です。その上で、自治体・ラジオ・マスコミに情報が共有されラジオ福島の「クマ出没マップ」などにも反映されていきます。
19. クマは「駆除」すべき?「守る」べき?
望月准教授のスタンスは「共存はできる。けれど“共生”(ペットのような関係)はできない」人の被害を防ぐために、駆除が必要な場面は確かに存在します。一方で、無制限に駆除すればいいわけでもなく、個体数が減りすぎれば、自然環境のバランスも崩れます。福島県では、毎年クマの個体数調査を行い、「今どれくらいクマがいるのか」を把握したうえで、「この程度の数なら捕獲しても個体群は維持できる」という科学的管理を目指しています。「クマがかわいそうだから絶対駆除反対」でも「危ないから全部撃て」でもなく、科学データに基づき、人とクマ双方にとってギリギリの線を探る作業が必要です。
20. 猟友会・ハンターの高齢化は、クマ問題にどう影響する?
非常に大きな課題です。クマやイノシシの捕獲は、高度な技術、多くの経験、そして命の危険を伴う仕事です。高齢化・人数減少が進むと、「クマを正しく・安全に駆除できる人がいない」状況になりかねません。必要なことは、若い世代の狩猟免許取得、ベテランの知識・技をきちんと継承する仕組みづくり、命のやりとりに見合う適切な報酬・社会的評価と考えます。
21. まとめ:私たちが「今すぐ」できること
最後に、望月准教授の話をもとに、県民・リスナー・登山者それぞれが今日からできることを整理すると、①情報を知る(自治体・警察・ラジオのクマ情報を定期的にチェックする)②装備を整える(山に入るときはクマ鈴・ラジオ・可能ならクマ撃退スプレーを準備し、使い方を事前に確認しておく)③一人で行動しない(山菜採り・農作業・通学・散歩も、可能な限り複数人で)④エサを置かない(放置果樹・生ゴミ・ペットフードなどをそのままにしない)➄遭遇時の行動を家族で共有する(遠くで見たら「後ずさり」、近くで出たら「頭と首を守ってうつぶせ」、決して走らない・石を投げない)⑥目撃したらすぐ110番通報(自分だけで抱え込まず、「地域全体の情報」に)することです。